2024年10月29日

「たかが個人情報」ではない
スマホアプリの罠、安全保障の脆弱ポイント

コラム13
便利さと危険は一緒にやってくる。インターネットの世界ではまさに危険を内包する便利なサービスが満ち溢れている。国家の安全保障上の問題にもつながりそうな個人情報収集の罠と疑えるようなものもある。

極めつけは遺伝子情報を解析して個人の疾病リスクを判定してくれる、というようなサービスであろう。
中国や米国のサービス会社が唾液などのサンプルを郵送するだけで、判定してくれる。スマホで簡単に申し込めるようになって日本でも話題になった。日本人の遺伝子情報が外国に集積され、免疫の有無などの情報を軍事的に悪用でもされれば、と考えると慄然とさせられる。

健康アプリにも注意信号

遺伝子情報とまで行かなくても、スマホの健康アプリも悪用されれば危険な個人情報をサービス事業者に提供していることになる。健康に関心の強いユーザーにとっては健康アプリが日々の健康状態を把握できる便利なサービスなのは確かである。この情報を基に医療関係者から適切なアドバイスを受けられるし、問題が発見されなければ不安のない生活を送れる。個人の疾病情報と組み合わせれば、医療の側からも治療手法の向上や創薬にも役立てるビッグデータが蓄積できる。

しかし、こういうメリットの裏で、外国からの「バイオテロ」やサイバー攻撃の危険性を排除できなくなっている。

悪意ある国が厳然と存在

互いに弱さを補うのが当たり前の善意にあふれた平和な社会なら良いが、残念ながら、現実世界では隙あらば隣国に攻め込もうとする悪意を持つ国が登場し、しかも、その悪意をむき出しにしつつある。個人情報の収集と解析は、隣国を攻める際の脆弱ポイントを探る重要な戦略の一つになりつつある。特に、生成AIの急進展で、解析技術も劇的に進展しつつある。自分の個人情報一つで何が分かるか、と油断していると、実は集合情報にすればいろいろなことが分かってしまうのである。「たかが個人情報」などと馬鹿にしてはいけない。

日経新聞の「経済安保のリアル」という連載企画では、スマホのアプリから投稿したデータが「アプリ提供企業」によってブローカーを通じて売買されていたことを報告しているが、さらに「精神疾患など健康データやローン返済履歴といった信用情報を数値化したクレジットスコア」まで売買されているという。

同連載では、「特有のリスクをはらむのが中国製アプリだ」と指摘、「中国の(軍など)安全保障機関が特定の個人を標的にできるようになる」と警告する。企画のテーマが経済安保なので、多くの健康データを収集することによって、創薬などで圧倒的に中国が優位に立つ、と経済に寄った議論もしているが、「中国は国家情報法で企業や個人に国の情報活動への協力を義務付ける。データを提供するように国が求めてくれば拒めない」とも触れ、経済安保よりも、国が敵国の重要人物の健康データを求める危険も示唆している。

ただほど高いものはない

インターネットが普及し始めたころ、筆者は日本のインターネットの最前線の大学で教え始めたが、日本では最もネットを使いこなしている学生たちの行動にびっくりし、危惧を抱いた。ネットには無数の特典サービスが出現していた。サイトからの質問にパソコンから応答すると、無料で魅力的な特典を受けられる。スマホがなかった時代で、みな、パソコンから多量の個人情報を入力し、特典を受け、自慢し合っていた。

「そんなにやたらに個人情報を知らせるとどんな落とし穴が待ち構えているかわからないぞ」と注意しても、「自分の個人情報など、知られて困る中身などない」と、若い学生たちは高をくくっていた。

日本では個人情報保護の規制から、厳重な匿名処理を行った上でしかサービス事業者は個人データを転用できないが、中国など一部の国では個人データをそのまま政府(その先に軍がある)に提出させ、悪用される恐れがある。たとえ個人情報保護に厳しい日本のサービス業者の場合でも危険が残る。匿名処理前の保管データがハッキングによって外国に流出する危険である。最近のサイバー攻撃の例を見ても、保管されている個人データを狙うものも目立っている。国内のサービス業者にもデータの保護を徹底してもらいたい。

日本事業者はデータの管理の厳格化を

利用するユーザーは気軽に個人データを提供してしまう。スマートウオッチなどで自動的に計測してデータを提供するケースも増えている。サービス事業者の側は厳重にデータを管理する社会的責任がある。経済安全保障の上でも、国家安全保障の上でも、社会的責任を全うしなければならない。

中島洋の「セキュリティの新常識」コラムは、こちら

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