2017年09月21日
医療データも共同利用へ
~拡大する情報共有分野、漏洩リスクも拡大~
セキュリティ・コラム by MM総研所長 中島洋
情報の共有化は新しい知見を生み、経済や学術の発展を促す。ということで、政府は行政の保管するデータのオープン化を強力に推し進め、また、民間が保管する個人データについても個人情報保護法を改定、匿名加工したうえでの第三者への提供を認めた。ここから新たな経済価値が生まれる。昨年12月に成立した「官民データ活用推進基本法」、今年5月末に施行された「改定個人情報保護法」が情報共有化を推進する原動力である。
ただ、こうした情報の共有化に慎重だった分野がある。医療分野である。治療データをデジタル化してビッグデータとして加工処理すれば、画期的な新しい治療法の発見にもつながって、医療革命が起きると期待されてきたにもかかわらず、医療データは高度に秘匿性の高いプライバシーにかかわる、として頑強な共有化反対論が大勢を占めていた。
単に医学界に貢献するということだけではない。患者にとっても、現場の医師にとっても医療データの共有化、共同利用はメリットが大きいはずだ。A病院で診断した内容が、B病院で受診した際にも簡単に利用できれば効率は飛躍的にアップする。現在は、同じ検査を病院が変わるたびに重複して受ける。問診も同じことを答えなければならない。既往症についての質問も別の医師にかかると同じことを何度も答えなければならない。病院間で情報を共有し、共同利用すれば重複は避けられるのに、と不満を抱いた向きも多いはずだ。
その最も慎重だった医療分野もとうとう、趨勢は「情報共有化」へと向かってきた。「本人の同意」が前提だが、報道によると、東京慈恵会医科大学など14大学、50病院で処方箋や診断画像といった個人の診療データを流通させる仕組みを作る、という。
その効果としては、「大学病院は患者が他の病院で受けてきた診療の履歴を簡単に参照でき、何度も同じ検査をする必要はなくなる。患者は自らの情報を異なる病院に通っても提示でき、診察時間の短縮や医療費削減につながる」と報道では期待が大きい。
「個人情報」は絶対不可侵に他人に開示せずに隠すものである、というのは過剰な防衛反応である。悪用されないような制度を整備しながら、経済的に意味のあるビッグデータとして活用すれば、新たな経済成長のエンジンになる。良い方向への、社会の高度化にもつながる。医療データ、診療データのこれまでの厳重な保護は、ある意味で「個人情報」の過剰な防衛の一つだった。その壁がゆっくりと取り払われつつある感じがする。
最も慎重だった医療分野で情報の共有化が始まったということは、プライバシーなどで過剰に保護意識が強かったさまざまな分野で共有化、共同利用の波が広がることが予想される。企業が自社で保管するデータを利用するだけでは不十分である。他の企業や行政がオープンにしたデータをいかに使いこなしてゆくか。企業の新しい競争条件になる。
しかし、便益の拡大はリスクの拡大でもある。共有化が進めば進むほど、情報漏洩のリスクも大きくなる。当然ながら、情報を保護する手立ても講じなければならない。企業も情報の集積によって新しい経済価値を獲得できる利益を享受するチャンスを見逃してはならない。同時に、漏洩したら大打撃を受けるリスクを同時に抱えることになる。新しい経済価値を目にすることに浮かれ過ぎず、蓄積してゆく膨大なデータを保護する努力が不可欠になる。
ZenmuTech からのコメント by CTO 友村清
先日、あるIoTのセミナーに出席した際に、パネルディスカッションの中で「改定個人情報保護法」が話題になっていた。「改定個人情報保護法」は、個人情報を含めた情報共有化を進めることで、新たなビジネスの創出やサービスの向上等に役立てることができる。その中の一つとして、医療データの情報共有化は増加の一途をたどっている医療費や介護費などを削減し、より高度な診断や医療を的確に提供できると期待されている。しかし、医療データは個人情報の塊であるので、取り扱いには細心の注意が必要である。
この個人情報の保護の観点からも個人情報を秘密分散化してその一部を個人本人が持つことにより、本人が許可しないと個人情報を参照することができないようにすることで確実に保護することができる。